近年の消費行動モデルは、テレビや新聞など従来の一方向メディアから、Web上で口コミを比較したりSNSで体験を共有するといった双方向メディアに移り変わりました。
現在の主な消費行動モデルをご紹介します。
AIDMA消費者心理の基本、マスメディア広告型
消費者心理を5つのステップで表したモデルです。1920年代の第二次産業革命時代に提唱され、当時の主なメディアは新聞・ラジオでした。
Web登場以前のモデルですが、現在は消費者心理を理解するための基本モデルとなっています。
AIDMAモデルをビジネスバッグを買い求める事例で解説します。


Attention注意
- 消費者
- 商品を知らない
- 企業
- 認知度を上げる
ビジネスバッグを広告でスーツやパソコンに関連した商品として目にしたり、SNSで流行りのバッグを見かけて興味が湧きます。通勤中に他の人が持つバッグが気になり、ビジネスバックの商品名やメーカーを検索します。
Interest興味
- 消費者
- 商品の特徴が分からない
- 企業
- 機能や効果を知ってもらう
インターネットでランキングやレビューを読んで、欲しい機能やデザインを見つけます。容量、軽さ、耐久性、素材、収納性、価格など、特性ごとにどのメーカーのビジネスバックが評判が良いかをチェックします。
Desire欲求
- 消費者
- 欲しいと思わない、魅力を感じない
- 企業
- 価値を理解してもらい評価を受ける
ノートパソコンを持ち歩くために緩衝収納がある、書類を入れるなら雨に強い撥水加工など、用途によって欲しいものを探します。満足のいく機能やデザイン、消耗品としてこの価格なら購入したいと感じます。
Memory記憶
- 消費者
- 忘れる、機会があっても買わない
- 企業
- 定期的に働きかけ、利便性を上げる
欲しいカラーの在庫がなく予算も足りず、購買意欲が薄れてしまいます。しかし、さらに多機能な新商品のビジネスバッグを記事で知ります。セールの告知を読んで思い出し、予算内で購入できそうです。
Action購買
- 消費者
- 買おうか迷っている
- 企業
- 購入を決める最適な機会を提供する
新しい商品の人気色は、また売り切れてしまうかもしれません。 セール期間中に会員ポイントを使えばさらにお得にネット購入できるので、今すぐにでも買った方がいいと判断します。
Point
AIDMAは、消費者心理の基本モデルで、特に感情に訴える工程を重視しました。
興味を持つための商品の話題性、欲しいと感じる新機能や価値観、顧客維持のための販売戦略。興味・欲求・記憶への感情的なマーケティング施策が、注目され購入につながるサイクルになり、大きな影響を与えると考えられました。
他のフレームワークを考える場合にも、AIDMAを元に判断し、情報を精査していく場面が数多くあります。方針に迷うとき、AIDMAはターゲットの消費者心理に立ち返り、戦略を立て直すことができます。
AISCEASインターネット検索型
1990年代インターネット黎明期ではGoogleやYahooの登場によって情報を検索するようになりました。インターネットの利用は主にパソコンが中心でした。2005年に提唱されたモデルです。
AIDMAは消費者の購買心理を表しているのに対して、AISCEASは消費者の行動を表しています。現在ではスマートフォン、ノートパソコン、車、BtoBサービスなど、高額商品の購入に活用されているモデルです。
AISCEASモデルをスマートフォンを買い求める事例で解説します。


Attention注意
従来のテレビや広告媒体に加えて、検索ワードから表示するリスティング広告、関心傾向から表示するディスプレイ広告、ガジェット記事やSNSなどから、スマートフォンの新商品を見る機会があります。
Interest興味
SNS広告やCMから、新機種の性能が向上した機能や新しいカラーバリエーションを見て興味を持ちます。メーカーサイトを見て販売時期を見たり、友人や家族との会話で聞いたりして関心を持ちます。
Search検索
新機種の評判が気になり、XやInstagramなどのSNS、GoogleやBingなどの検索エンジンで検索します。人気商品のランキング、IT機器専門のサイト、ECサイトのレビューなども検索します。また、お得に購入できる方法、分割払い、修理保証の情報も検索します。
Comparison比較
スマートフォンのメーカーサイトで機能やスペック、カラーなどを比較します。購入者のレビューから実際の使用感や不便さ、動画再生かSNSメインか用途に適したスペックなど、情報収集します。
Xaminarion検討
購入したいスマートフォンを絞り込み、さらに製品保証や分割払い、下取りなども検討します。チャットで購入方法や詳しい製品仕様を問い合わせたり、店頭で実物に触れて販売員に質問したりします。
Action購買
ネットショップや店頭で新機種のスマートフォンを購入します。様々な決済や受取り方法の中で、最適な購入方法を選びます。購入時に製品保証、オプション、下取りや廃棄なども申込みます。
Share共有
例えばインフルエンサーが、スマートフォンを買い替えた話題をXやInstagramにポストすると、使用体験は次の購入者の比較材料になり、次第に拡散していきます。シェアは、メーカーにとって最も販促効果があり、見込み客の関心や購買に最も影響するようになりました。
Point
Webサイトやアプリケーションは、AISCEASの行動段階ごとに必要なコンテンツを提供し、消費者が満足する情報量、様々な価値の提案、入手経路の選択も提供することになりました。
Web広告では、ターゲットユーザーが検索エンジンに入力するロングテールキーワードを想定したり、利用シーンごとに異なるキャッチコピーを考案します。その際にAISCEASのフレームワークが役立ちます。
見込み客には特に、他商品と比較できる充分な情報量と、他社では得られない独自の体験や感動を伝えることが重要になり、次のコンテンツマーケティングにつながりました。
DECAXコンテンツ発見型
2000年代X・Facebook・Instagram・YouTubeなどのSNSによって、消費者が自ら情報を発信・共有するようになりました。
スマートフォンやタブレットなど様々な端末の登場でさらに手軽に情報拡散するようになり、情報過多の2010年代ではコンテンツを厳しく選別するようになります。
コンテンツマーケティングに移行したモデルDECAXは、2015年に電通デジタル・ホールディングスが提唱しました。
「消費者に日常生活の中から発見してもらう」という特徴があります。商品の使用感をシェアしたり、SNSから情報を見つけて購入する、コンテンツ発見型モデルです。
DECAXは消費者主体で発信するコンテンツが自然に拡散していく一方で、企業がそれに参入し、消費者がコンテンツに触れる機会を提供するようになりました。消費者と企業の関係性を築いていく事例を挙げて、DECAXモデルを解説します。


Discovery発見
- 消費者
- 認知する
- 企業
- マーケティングで関心を引く
消費者は普段目にしているSNSでフォローから流れてくるタイムライン、記事に関連するディスプレイ広告、ChatGPTなどAIが回答した用語などから、興味が湧いたり欲しいものを調べたりします。企業は、専門性の高い情報提供や様々なメディアでのインプレッションで、消費者の発見を促します。
Engage関係
- 消費者
- 関係を築く
- 企業
- オウンドメディアを活用して関係構築
SNSでは消費者の発信だけでなく、企業も直接消費者のポストに反応し、対話をするようになりました。企業は、消費者の購入有無に関わらず、新しい価値観や用途を提案する記事や動画、広告を配信します。自社商品のレビューや競合商品への要望を収集し、商品開発に活かしながら、より活発な双方向性の関係を築いていきます。
Check確認
- 消費者
- 関係を深める
- 企業
- 試供品の提供、評価や保証対応の公表
消費者は、試供品やサービスの試用期間で事前に確認する機会が増えました。購入や契約の前に商品を実体験して、他社製品のスペックと比較したり、カスタマー対応を含むサービスの品質も知ることができます。一方で使用感を消費者同士で尋ね合ったり、企業の保証などの対応実績もチェックします。
Action購買
- 消費者
- 購入して体験する
- 企業
- 快適な購入手段とカスタマーサポート
消費者はチャットや電話または店頭のサポートを受けながら、様々な決済と受取り方法で購入します。購入後は、商品保証やメンテナンスを受けながら使用することができます。消費者の購入体験の評価が高ければ、継続的な購入や需要の拡大につながります。企業の不誠実な対応次第ではSNSの炎上リスクもあります。
Experience体験・共有
- 消費者
- 体験を共有する
- 企業
- 新商品開発、新たなマーケティングへ
消費者は、SNSで様々なシーンでの使用体験をポストしたり、レビューをYouTubeで配信したりします。フォロワーがシェアして拡散していき、商品やサービスの新しい要望や期待を気軽にポストすることで、企業に消費者の声が届きます。企業はそれに応えて新商品開発へ、消費者と築いた新しい価値観をマーケティングにつなげていくことになります。
Point
スムーズな商品購入やサービスの快適な利用のために、スマートフォンに特化した使いやすいUI/UXのアプリやWebサイト、オンラインサポートを充実させています。
SNSは、宣伝になる体験のシェア拡散だけでなく、改善して欲しい消費者の要望を受け取る役割も担っています。企業の真摯な対応も新商品の話題性も、数日、数時間という速さで広がるようになりました。
購入体験が、満足のいくものであったり期待以上の感動をシェアしてくれることが、コンテンツマーケティングの最大の効果になります。
DREAMAIエージェント型
一瞬で膨大な情報量を読み取り、回答を高度に最適化する「AI」が登場しました。経路検索などから始まり、SNSもコンテンツもあらゆるサービスがAIによって飛躍的に効率化が進み、消費者の生活に深く浸透しています。
博報堂買物研究所は、2025年に購買行動モデル「DREAM」を発表しました。消費者はAIエージェントと「対話」し、購買には「承認」する、というバーチャル生活者の共通点を見出しました。
この時代の行動変容から、AIエージェントをターゲットにしたマーケティングが必須になると言われています。


Dialogue対話
購買は、「商品を探す」から「AIとの対話からニーズに気づく」へと変わりました。AIは代替品や解決策など、多角的に応えるようになります。消費者のパーソナルデータを記録し、膨大な情報量をフィードバックすることで、蓄積により精度を上げ続けていく回答になりました。
- ChatGPT - 対話から数秒で信頼ある情報を推奨、パーソナルデータを記憶する
- AVA Travel - 旅行プランをAIが30秒ほどで作成
- viewty AI肌診断 - スマホで肌診断、最適な化粧品を提案
Recommended推奨される
膨大な情報を自分で比較、選択する負担が激減しました。AIがパーソナルデータをもとに、消費者の生活や価値に合った的確な情報を、選んで提示してくれます。自動的な収集データだけでなく、消費者の関心がない意思を取り入れ、より快適にサービスを利用できる配慮も施されています。
- X, Instagram, TikTok - ユーザーの行動をAIが分析し、最適な情報を表示
- Netflix - 好みのコンテンツをお勧めするレコメンド機能
Experience体験
バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)で、商品をインタラクティブに体感します。五感で確かめやすく、消費者の希望に沿った精密なシミュレーションが再現できるほど、納得のいく購買につながります。そのため、感覚的にも参考になる情報を、AIは優先的に取り込む可能性が高いと考えられます。
- チームラボ - VR/ARとAIによるインタラクティブアート
- TCB AI シミュレーター - 理想のエイジング施術をスマホで再現
Assurance確信・承認
消費者は希望を伝えて、充分なシミュレーション体験をして納得すると、後悔のない選択ができます。金融商品ではすでに「AIの提案を承認する」という購入方法もあります。商品選びの効率が上がり、情報過多のストレスがないため、時間をかけずに満足度の高い購買を実現しています。
- Amazon - AIが膨大なレビューを解析し要約、フェイクを排除(レビュー分析)
- おまかせNISA - リスク許容度に応じてAIが全自動で分散投資する(品質保証)
Management管理
AIは嗜好やニーズをさらに学習し続け、次の対話に活用されます。より深くパーソナライズされ、精度の高い提案ができるようになります。また、一部の人のレビューではなく、フィードバックによってAIに要約され、みんなの感じたレビューになります。その有益な選択肢を拡充して、AIはより多角的に応えるようになります。
- Spotify - ユーザーの視聴履歴を学習、AIがプレイリストを自動生成(サービスの最適化)
- Salesforce - AIが顧客データを分析、最適なマーケティング施策を提案(関係維持)
Point
消費者の購買は、マシン・カスタマー(代理で最適化された売買を担うAI)に置き換わりつつあり、消費者の承認という購買も、AIの自動売買も登場しました。AIエージェントに向けたマーケティング戦略も重要になっています。
しかし、AIの要約表示はされてもゼロクリックのまま、従来の広告では効果がなく、消費者に情報が届かないという現状があります。また、AIはネット上の誤情報も要約するため、人が真偽を確かめなければなりません。
一方で消費者は、大企業ブランドではなく、身近で親しみを感じる個人や専門家、小規模なインフルエンサーの情報を信じるような感覚になりました。その入り口となるX、Instagram、YouTube、TikTokなど多角的なプラットフォームへのアプローチも有効です。また、画像、動画、分かりやすいテキスト表現、マルチモーダルAIのインタラクティブな動画処理、エージェント音声など、複合的で感覚に伝わりやすいものが求められています。